宮部みゆき『あんじゅう 三島屋変調百物語事続(ことのつづき)』 ~読み始めると止められません。面妖な怪異譚も、結局、人の想いを語っています。物語の、きれいな締めくくりが印象的です。

 昔、熱中症のことを《霍乱(かくらん)》と言いました。《鬼の霍乱》。皆様、ご自愛ください。

 さて、全5巻ある、「三島屋変調百物語事」の第二巻目、「」です。これも、630頁と分厚い。

宮部みゆき 『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』(角川書店)

 人の心の器から溢れる言葉を受け止めるおちかの聞いた、謎に溢れた物語が続きます。
 題名の、「あんじゅう」とは、第三話、《暗獣》からです。

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 最初の、「第一話 逃げ水」から、読むのが止まらなくなりました。
 丁稚・平太と、小野木村で、鉄砲水の水害が無くなった集落で、必要とされなくなった、可愛い女の子の神様、《白子(しろこ)様、お旱(ひでり)さん》との〈友情〉。
 それに、やはり三島屋の丁稚・新太と平太の友情。ほのぼの感じる、ややファンタジックな話です。

 三島屋の人々が、皆、優しい。また、養父・伊兵衛や口入屋灯庵老人の世慣れた意見や養母・お民の心得顔も心地良い。

 全体の「百物語」は、江戸・筋違橋(すじかいばし)近くにある袋物屋「三島屋」の養女・おちか(17歳)が、養父の伝手(つて)で、口入屋、読売(瓦版屋)、岡っ引き達に広めて貰って、不思議な話を持っている人を、5日に一人の割合いで招いて、その話を聞いてあげる趣向です。
 聞くのは、おちか自身の辛い経験を〈日にち薬〉で和らげるだけでは無く、カウンセリングする一助もあります。その第二巻めになるわけです。

 第二話、「藪から千本」。「嘘ついたら針千本飲~ます」の針が、藪を突いたら出て来たことを暗示する章題です。
 江戸時代の商家や武家では、〈身代を割る〉とか〈家を分かつ〉と言って、双子を嫌った。〈畜生腹〉とまで言って嫌ったのが、針屋住友屋の姑です。死んでまで呪う。
 やがて、双子の一人・花が死にます。残った梅に祟りが集中します。

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オペラ『魔弾の射手』を鑑賞しました ~オペラ・ファンと宝塚「大和悠河」ファン、熱狂のスタンディング・オベーション。コンヴィチュニー演出にしては、楽しさ満載の一夜でした。

 危険な暑さ・・、7月18日(水)、18時30分から、上野・東京文化会館で、
3幕のロマンテック・オペラ、

 『魔弾の射手』(3幕)

作曲・カール・マリア・フォン・ウエーバー(1786-1826)、
台本・フリードリヒ・キント、
を鑑賞しました(1821年初演)。席は、S席中央最前列です。
 英語と日本語の字幕付き原語歌唱/日本語台詞で、〈新演出〉です。

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 余談ですが、以前観た、
映画「魔弾の射手」(2010年)、指揮・ダニエル・ハーティング=ロンドン交響楽団、
制作、監督、台本・イェンス・ノイベルト、
は、正統派で、良く出来ていました。

 今回、
演出は、ペーター・コンヴィチュニー
指揮は、アレホ・ペレス
 =読売日本交響楽団&二期会合唱団
 テンポの速い演奏で、迫力があります。

 鑑賞前には、相当〈構えた〉コンヴィチュニー演出ですが、この日は、若干予習の成果もあるのか、すこぶる分かりやすく、楽しめた演出でした。

 私は、コンヴィチュニー演出のオペラを、すでに、
2013年5月1日「マクベス」(指揮・アレクサンドル・ヴェデルニコフ)、
2011年2月22日「サロメ」(指揮・シュテファン・ゾルテス)
を観ています。また、
6月27日(水)には、「ペーター・コンヴィチュニー『演劇についての新たな考察」も聴講しています。

 この舞台で、元宝塚スター、大和悠河(ゆが)
が、悪魔(猟魔)ザミエル役(台詞役)で出るので、客席では、「キャー!!」とか、日頃のオペラに無い声援が入ります。
 冒頭、最初の登場で、2列目の一団の「キャー!!」と拍手で、これからの鑑賞を心配した位です。
 余談ですが、12本のスタンド花がありました。「増田惠子さん贈」のもありました。

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 で、自然と、オペラ声楽陣も対抗心 ? が入るのか(私の印象です)、出来が素晴らしい。特に、
クーノーの一人娘アガーテ・嘉目(よしめ)真木子
親戚の娘エンヒェン・冨平安希子
は、熱演が光りました。
 私、嘉目さんのファンです。
 冨平さん、台詞で、「白い鳩」を「白い鷹」と言い間違えましたが、ご愛敬です。

 もう一人、ヴィオラ・ソロの、
ナオミ・ザイラー(ハンブルグ州立歌劇場管弦楽団主席奏者・客演)
の演奏と演技は光ります。良かった。
 ザミエル役ですから、大和悠河がヴィオラを弾ければこの役もやったのでしょうが、勿体ない。

 で、まずは、大和悠河の感想は・・、

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心に染みいる一枚の絵、ムンク『病める子』 ~10月からの『ムンク展』に期待しています。文末に、近況も、一言添えました。

 この画家には、夏の明るい太陽の陽ざしは似合いません。
 秋、10月27日から1月20日まで、上野の東京都美術館で、『ムンク展』が開催されるというので、ムンク (1863-1944) の画集を繰っていました。
 有名な、人間の不安を表現した、「叫び」(1893 油彩)の〈解釈〉を見るのが主目的でしたが、「病める子」の絵に、心が、釘付けになりました。

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 私は、ワイエスの「クリスティーナの世界」も好きですが、この絵にも、心が、没入しました。
 ノルウェーの表現主義の画家、エドワルド・ムンクが、1885年(22歳)から86年にかけて、何度も修正して製作したものです。

 エドワルド・ムンクの姉、ヨハンネ・ソフィエは、15歳(1877)で、結核で死去しました。エドワルド自体も、気管支炎やリュウマチ熱などで、すこぶる病弱でした。

 その時、エドワルドは、14歳でした。姉を追想し、その〈痛み〉を追体験しています。精神性豊かに死の問題と対決し、去る者と残される者に生ずるドラマを凝縮された雰囲気で表現しています。絵のモデルは、街で見つけた赤毛の少女、ベッツイ・ニルソンとか。

 同じ様な絵は、同時代のクリスチャン・グローグ「病める少女」などもありますが、雰囲気がまるで異なります。

 臨終を見守って悲しむのは、叔母カーレン・ビョルスタです。
 既に、母・ラウラ・カトリーネ・ビョルスタも、30歳で、エドワルド5歳の時に、5人の子を残して、結核で死去しています。
 カーレンは、残された子ども達の親代わりでした。

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原田マハ 『デトロイト美術館の奇跡』 ~絵画の〈行く末〉と、絵画を愛する人々の人生を投影した、心に染み入る物語を味いました

 いったい、何が〈奇跡〉なの ? と読み始めました。
 財政破綻したデトロイトにある、DIA(デトロイト美術館)の物語です。迂闊ながら、これに問題意識を持って、知りませんでした。

原田マハ 『デトロイト美術館の奇跡』(新潮社)

 表紙の絵は、フランスの画家、ポール・セザンヌ(1839-1906)の《マダム・セザンヌ》(「セザンヌ夫人の肖像」)。
 セザンヌ夫人、オルタンスを描いた作品です。

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 オルタンスは、仏語で、アジサイを意味するオルタンシアに由来しています。セザンヌが30歳の時、18歳のオルタンスと知り合いましたが、父から仕送りを受けていたセザンヌは、二人の関係を隠し続けました。
 結婚したのは、17年後です。父は、この年88歳で亡くなりました。

 セザンヌは、オルタンスの絵を生涯に油絵だけでも29枚描いています。
 余談ですが、メトロポリタン美術館では、これら肖像画を一同に集めた展覧会も行われましたね。

 生真面目にきゅっと口を結び、頬はほんのりとバラ色で、こちらを一心に見ています。粗末だが、朝焼けの色が溶け込んだような青色の服に包まれた体は、かすかにゆがみ、大地に根をはる樹木の幹に似ています。

 本書は、この絵に魅入られた人々の物語です。

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梨木香歩『家守綺譚』 ~日本の四季の移ろいを背景に、ファンタジックな物語が、珠玉の文章で綴られています。まるで、幽玄な能楽を観賞した後のような心持ちです。

 本来は、こちらの書を先に読むべきでした。
先日読んだ、『冬虫夏草』の前に出版されたものです。
(余談ですが、7月5日の日本テレビ「ぐるナイ」で、冬虫夏草と鴨を紹興酒で蒸した料理の値段が、18,500円でした。出演者は、3,800円と値付けして見事外れました。)

梨木香歩(なしき かほ) 『家守綺譚(いえもりきたん)』(新潮社)

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 本書も、〈サルスベリ〉から〈葡萄〉まで、目次記載以外も含めて、34の生物が折に触れて登場します。〈竹の花〉の話は、始めて知りました。

 ところで、この本で、数行出てきた、ダンテ・ゲイブルリエル・ロセッティ(1828-1882)の詩に興味を持ちました。
 調べてみると、蒲原有明(かんばら ありあけ 1875-1952)が、ロセッティに傾倒して、訳詞集を出していますが、「常世鈔」にある《ゑすがた》(肖像画)のようです。

 この『家守綺譚』には、もう一つ、ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」の詩《ミニヨン》も登場します。語るのは、南の国への憧れです。

 ・・と、得られた新知識の話を先にしました。

 さて、やはり、本作は、『冬虫夏草』の前段の知識が、当然ながら得られます。

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顧蓉、葛金芳『宦官(かんがん)』 ~後漢の頃には1万人以上、明末には10万人以上いたという、宦官についての、微に入り細を穿つ記述です。

 「三国志」の小説を読もうと思います。
 まずは、《周囲》から、予習しています。どの作者のどの小説を選んだか、また、どんな書物で予習したかは、後日、別にアップします。

 きょうは、そのように、幾つか参考に資料を読み始めた中で、「清流と濁流」の派閥対立(濁流が、宦官です。)や、「官僚と宦官の殺し合い」、などと度々出てくる、それに、三国志の英雄・曹操(そうそう)が、祖先に宦官がいましたし、
 後漢の宦官・趙忠は、霊帝に命じられて車騎将軍として〈黄巾の乱〉(184年)に鎮圧に向かいました。
その《宦官(かんがん)》が、今ひとつ、よくわかりません。それで、

顧蓉、葛金芳『宦官(かんがん)』(徳間書房)

を読みました。
 著者、顧蓉(こよう。1944-)、葛金芳(かつきんほう。1946-)は、何れも湖北大学の教授です。訳は、尾鷲卓彦。

 サブタイトルが、「中国四千年を操った異形の集団」とあります。微に入り細を穿つ記述です。時に、嫌悪のような感じを持つこともありました。

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 まずは、「宦官」(かんがん)。太監(たいかん)とも、奄人とも言います。あるいは、ユーナック(Eunuch)とも言われ、インドやヨーロッパ諸国(ギリシャ・ローマなど)にも存在しました。

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梨木香歩『冬虫夏草』 ~民話や伝説の、日本の原風景をフィールドワークするような、独特の優しい雰囲気を持った主人公の〈旅〉です。

 どういう風の吹き回しか、また、暑い夏が訪れたせいか、実は、洒落た題名にひかれたのが大きいのですが、多少は、小さな生物の本も良いかな、と思ってこの本を求めました。
 たしか、新潮社の月刊PR誌『波』に連載されていましたが、その時は、スルーしていたのです。
 しかし、内容は、生物の本ではありません。どちらかというと、ファンタジックな物語です。面白かった。読んで良かった。過日読んだ、朝井まかて「雲上雲下」を彷彿させます(3月28日記事)。

梨木香歩(なしき かほ)『冬虫夏草(とうちゅうかそう)』(新潮社)

梨木香歩(1959-)さんは、児童文学も書いています。

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 未読なのですが、本編は、『家守綺譚』(2004年)の続編だそうで、それには、百年ほど前、主人公・綿貫征四郎が、ボートで行方不明になった学生時代の親友・高堂の家の守を頼まれたり、その幽霊と語り合ったりの物語のようです。次回、読んでみます。

 植物などのエッセイなどではありませんが、題名どおり、たしかに、《マツムシソウ》から始まって、《茅》まで、目次記載以外の生物も含めて、数えると、大体、54種類の、大半は植物が、折りにふれて出てきます。

 しかし、「冬虫夏草」とは(これにひかれて買ったほどの、しゃれた題名ですが)、実は、「サナギダケ」のことで、冬の間に、蛾の幼虫に寄生して、春から夏に成長するキノコの一種です。
 これは、貴重な漢方の生薬で、また、中華料理や薬膳料理にも珍重され、〈軟黄金〉とも言われます。2007年には、中国四川省で、チベット族同士の採集争いから、6名死亡・約100名負傷などという事件があったほどです。
 この題名には、境界を、行ったり来たりする象徴としての意味も込められているのでしょうか。

 物語は、百年ほど前のことです。京の山科あたりに住んで、死んだ親友の家守をしている、文士である、主人公・綿貫征四郎が、自宅からいなくなって2か月になる、愛犬・ゴローと、話に聞いた《イワナ夫婦の宿》を、鈴鹿の蛭谷(ひるたに)周辺に探す旅です。
 その途中で〈邂逅〉した植物などがさりげなく書かれています。

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東京二期会『魔弾の射手』プレトーク」、ペーター・コンヴィチュニー「演劇についての新たな考察」を聴講しました ~コンヴィチュニー演出の醍醐味が理解でき、多くの《謎》が解けました。宝塚の、大和田悠河さんも飛び入り出演しました。

 6月27日(水)19時から21時過ぎまで、東京ドイツ文化センターホール(GOETHE INSTITUT。青山一丁目)で、

ペーター・コンヴィチュニー「演劇についての新たな考察」

を聴講しました。席は、最前列。

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 話も、通訳も的確で、実に充実した2時間余でした。
 こんなに、《立ち入った》解説があるとは、予想外で、嬉しくなりました。コンヴィチュニー(敬称略)は、通訳が心配するのもお構いなしの《ネタバレ》満載です。いいんですよ、オペラの舞台なんですから、演出意図の話は、《ネタバレ》とは違います。その点、通訳は、誤解しているのでは。この話が無ければ、講演の意味がありません。

 宝塚の、大和田悠河さん(悪魔ザミエル役)も飛び入り参加です。何と美しい。
 大和田さんの役どころも、コンヴィチュニーから詳細な解説がありました(後述)。
 聞き手は、森岡実穂(中央大学経済学部准教授・英文学。写真、向かって左端。何れの写真も許可ある撮影です。)

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 ペーター・コンヴィチュニーは、指揮者・フランツ・コンヴィチュニー(1901-1962)の息子で、1945年生まれ。ライプツィヒ歌劇場主席演出家です。
 私は、既に、2013年5月に「マクベス」を、2011年2月に「サロメ」を観ています。
「サロメ」の時は、凄いブーイングでしたが、コンヴィチュニーにとって、ブーイングは勲章のようなものです。

 今回は、7月18日に観劇する予定の、3幕のロマンテック・オペラ・『魔弾の射手』(3幕)の《プレ・ソワレ》です。
 この日は、19時から開演で、ゆっくり楽しみたいので、終了後は、お隣の、「富山県赤坂会館」に1泊しました(シングル、朝食付き8100円)。いつものことです。15時にチェックインして、一休みしてから会場に向かいました。

 話の前半は・・、
 過去にコンヴィチュニーが演出した3つのオペラを中心に、どのような演出意図があるかを、映像で〈解明〉していきました。
 その要諦は、「世にある多くの演出の様に、テキストだけ、物語だけを舞台化しない」ということでしょうか。その意味で、原台本のト書きは、無視されます。

 まず、1995年にライプチヒで公演された、チャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」2幕2場での、普通行われるバレエシーンが、コンヴィチュニーは気に入らない。
 で、オネーギンが、親友レオンスキーを殺しての「ポロネーズ」では、バレエでは無くて、オネーギンが死体を抱いて、慟哭して、ダンスします。
 通常、この後の休憩後に演じられる、親友の死を悼む心情を、休憩前にポロネーズに重ねて見せたわけです。
 オネーギンの嘆きと音楽のコントラストで、感情の摩擦が描かれます。

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西山ガラシャ 『日本博物館事始め』 ~こうして、東京国立博物館が出来た。次々と現れる難問。まさに、博物館建設に奔走した町田久成の苦闘の物語です。

 面白そうな本があったので、早速、読みました。
上野にある、「東京国立博物館」の創設物語です。

西山ガラシャ 『日本博物館事始め』(日本経済新聞社)

です。

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 著者は、2015年に、「公方様のお通り抜け」で、第七回日経小説大賞を受賞し、これが受賞後第一作です(2017年刊行)。

 西山ガラシャ(本名・服部伊都子〈はった いつこ〉)さんは、1965年名古屋生まれ、南山短期大学卒業。
 余談ですが、西山「ガラシャ」とは、ちょっと、異色のペンネーム。ご本人によれば、「クリスタルガラスの様な響きが気に入っている」そうですが、日経小説大賞審査員の高樹のぶ子さんは、受賞作品にもペンネームにも、随分批判的に感じられます。対して、伊集院静さんなどは、「面白きゃいいんだよ」と弁護し、褒めています。

 ところで、本書の表紙カバーは、「東京国立博物館」全景が載っていますが、英国人ジョサイア・コンドル設計のこの建物は、担当大震災で破壊され、現在は、建て替えられたものです。

 物語は、東京国立博物館建設に奔走し、初代館長だった、町田久成(1838-97)を中心に進みます。
 本館脇の平成館に通じる道すがらに銅像が建っています。

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 すでに、関秀夫「博物館の誕生ー町田久成と東京帝室博物館」(岩波新書・2005刊行)がありますので、知っている方もいるのでは。

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「プーシキン美術館展」(東京都美術館)で、ロランから、モネ、そしてルソーまで、夢のような〈旅〉をしました。28年前行ったパリも思い出して・・。

 梅雨の合間の快晴。上野に出かけました。

 後日、アップする小説(西山ガラシャ『日本博物館事始め』)の感想記事の執筆の参考に、まず、《東京国立博物館》に寄って、本館と東洋館をざっと一巡りした後、館内の《ホテルオークラレストラン ゆりの木》で昼食をとってから、この日の予定である、《東京都美術館》の、

プーシキン美術館展 -旅するフランス風景画

を観賞しました。
 モスクワ中心部にある美術館(館長・マリーナ・ロシャック)で、今回は、風景画のジャンルのフランス絵画、約70点を集めた貴重な展覧会です。

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 今回、初めて、〈音声ガイド〉(解説・水谷豊)を遣った(550円)のですが、なかなか好調で、解説する20作品だけでなく、そのペースで、全作品をじっくり観ることになりました。
 ガイドには、時折、ラベルの「クープランの墓」メヌエットやドビッシーの「アラベスク第2番」などのピアノ(三浦友里枝)BGMも入ります。
 本編ガイドのほかに、10ほどの「コラム音声」(解説・上坂すみれ)もあり、その間、休憩して椅子で聞き入っていました。

 展示は、6ブロック(「6章」)に分かれていて・・、つまり、
1近代風景画の源流、
2自然への賛美、
3大都市パリの風景画、
4パリ近郊ー身近な自然へのまなざし、
5南へー新たな光と風景、
6海を渡ってー想像の世界、

 まずは、神話世界の〈風景〉として、クロード・ロラン「エウロペの掠奪」(1655)から始まり、
バルビゾン派の現実を見つめる風景に入って、ギュスター・クールベ「山の小屋」(1874)などから、・・・

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真山仁 『オペレーションZ』 ~日本の累積債務問題を解決するために、単年度予算を半減する政策を扱ったスリリングな作品です。傍論での、《北海道の財政再建団体》の話は、〈小説〉とは言え、つい、どこまで本当かと、考えてしまいます。

 現役を退いてから、政治・経済小説を読むのは久しぶりです。
 新聞の書評欄で好評だった、また、「ハゲタカ」(2004)や「売国」(2014)で著名な作者なので、早速、読んでみました。作者(1962-)は、新聞記者も経験しています。

真山仁 『オペレーションZ』(新潮社)

です。

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 余談ながら、経済学者は、この作品をどのように思うか、聞いてみたいところではあります。つまり、《スジ》の善し悪しを知りたいのです。

 物語は、国家破綻(デフォルト)下のアルゼンチンに始まり、日本の生命保険会社の破綻危機に話が飛び、迫力ある導入です。

 梶野前総理大臣による〈カジノミクス〉の金融緩和策で、日銀が、10年物新規国債の70%を買い受け、約1,000兆円に膨らんだ累積債務(財政赤字)での、国家破産危機(デフォルト)を回避するために、時の江島総理大臣が、チームZのプロジェクトチームを作り、単年度で、「予算半減」を目論みる話です。
 「Z」は、もう後が無いことを意味します。
 プロジェクトチームは、チームOZと言われますが、厚生労働省では、自嘲気味に、マーシャルロー(戒厳令)計画とも言います。

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国立西洋美術館で、「睡蓮」に見入る幼児たちに感動しました。

 散歩を兼ねて、久しぶりに、上野の「国立西洋美術館」に行きました。
 この日は、常設展を見て廻っていましたが、印象派の部屋の、
クロード・モネ(1840-1926)、「睡蓮」(1916作品)
の前で、幼児たちが座って、感想を言いながら観賞している、微笑ましい姿に感動しました。

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 「睡蓮」の右には、やはりモネの「陽を浴びるポプラ並木」が掛かっています。

 もう一枚は、ジャン=フランソワ・ミレーの「春(ダフニスとクロエ」(1865)を観る幼児たちです。

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 話が前後しましたが、次の写真は、
オーギュスト・ロダンの「カレーの市民」の手前から見た、美術館の建物です。ル・コルビュジェ設計で、世界文化遺産(2016)になったのは、ご承知と思います。

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 ちなみに、65歳以上になると、常設展は、無料なので、これから散歩に足繁く行こうかと考えています。
 原田マハ氏の本を読んでいますので、印象派絵画が身近に感じられ、見ていても楽しい。美術館出口近くのDVDは、作品の詳しい説明映像が流されていて、ソファに座って、30分以上見ていました。
 これで、勉強になったので、次は、もっと充実した観賞が出来るはずです。

 2時間ほどで出て、東京都美術館の「プーシキン美術展」も観て行こうかと思いましたが、昼食を予定している《厳選洋食 さくらい》の昼のオーダーストップが近いので、この日は一か所にしました。
 《さくらい》を出て、少し先の《湯島天満宮》に寄って御朱印を頂いて、《みはし》で杏あんみつを土産に買って、帰途につきました。

 最後に、今、読んでいるのは、
真山仁 『オペレーションZ』、井波律子 『「三国志」を読む』などです。★

原田マハ 『異邦人(いりびと)』 ~二人の女性のアイデンティティーが、物語を牽引して、最後、立て続けに驚愕の真実が現れます。まさに、卷を措く能わず、です。「源氏物語」源氏没後の薫、浮舟世代の無常観が漂います。

 14日は、私の71歳の誕生日です。
 メイ・サートンの詩にあるように、そろそろ、
「私は船脚をゆるめ」「安全に着岸できるように」しようかと思っています。

 さて、今日の読書は、

原田マハ 『異邦人(いりびと)』(PHP研究所)

です。

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 これまで、名画や画家を下敷きにした、キュレーター原田マハ氏の小説を読んできました。例えば・・、

モネらを描いた「ジュヴェルニーの食卓」、
ゴッホの「たゆたえども沈まず」、
オーブリー・ビアズリーの「サロメ」、
アンリ・ルソーの「楽園のカンヴァス」・・・、

 今回は、日本を舞台にした現代物です。
 夫、一輝が、京都の「ハイアットリージェンシー」に行く描写から、リアルな期待一杯です。
 書題が、「異邦人」。
 昔、好きで熱中した、フランツ・カフカ(1883-1924)を、どうしても思い浮かべてしまいます。
 しかし、これは「いりびと」と読ませています。

 ただ、この「異邦人」の題名にしろ、冒頭の「源氏物語」の一句にしろ、巻末の「枕草子」の句にしろ、引用がひねりすぎで、やや、「ん ?」となり、ペダンチック過ぎるかもしれません。

 私は、リアルな現代物では、白石一文(1958-)が好きです。「一瞬の光」なんて素晴らしいですね。
その文章に書かれている、ちょっとした、飲み物や食べ物の固有名詞も〈勉強〉になるくらいです。対して、本書は、京を細かく描写しています。

 で、カフカと白石一文のファンである厳しい眼差しで、本書を読みましたが、面白かった。まさに、卷を措く能わず、でした。

 巧い。当初、考えていた以上でした。
この物語に出てくる言葉を遣えば・・、
アクセス(入り口)、手法(アプローチ)、到達点(アチーブメント)・・
が、巧くて、特に、後半は、畳みかけるように、いろいろな謎が解けていきます。

 「いりびと」とは、元から京都に住む人ではない、余所から来たひとのことです。
 最初、主人公・菜穂(なほ)の、京での苦境が背景かな、と思ったのですが、菜穂は、あっさり、京に同化するどころか、父親が、祖父と思っていた喜三郎で、実母が祇園の芸者、真樹乃(まきの)だったことが分かります。

 ・・・本書冒頭に、「源氏物語」第四十九帖「宿木」の、柏木と女三宮の不義の子・が、宇治の初瀬詣で、偶然行きあった、宇治八の宮の三姉妹の(亡くなった)姉・大君とうりふたつの、異母妹・浮舟をのぞき見る場面の引用の節があるのが印象的です。
 三姉妹の中君と結ばれた源氏の孫・宮は、浮船に心寄せ、薫を装って接近します。
 薫は、懐妊中の中君を慰めるうちに恋情を寄せます。薫も、匂宮も、浮舟を京に移そうとして、二人の間で浮舟は悩みます。
 薫は、女二宮と結婚しますが心は晴れません。一方、中君は、男子を出生します。
「源氏物語」後半、薫と浮舟世代の物語は、男女の愛に深い亀裂があり、しょせん人間は一人という〈運命感〉が漂い、幸福な結末が求められません。それが暗示されています・・・。

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香原斗志 『イタリア・オペラを疑え! 名作・歌手・指揮者の真実をあぶり出す』 ~〈疑え〉は、イタリア・オペラに対するいわれのない偏見を〈疑え〉ということから始まります。ベルカント・ロマン主義・ヴェリズモという声楽の変遷も細かく説明されています。

 余談ですが、今朝、日生劇場・11月公演、「コジ・ファン・トゥッテ」の会員先行発売チケットを買いました。
 日生オペラは、破格に低廉です(S席で、9,000円)し、今回は、デスピーナに、高橋薫子(私、ファンです ! )も出るせいか、良い席は、瞬殺 ?! でした。なんとか、S席最前列をとれましたが、やや、下手寄りになりました。
(参考;この公演は、4、5つの「無料講演企画」などもありますから、オペラ初心者の方は、じっくり事前勉強できて、お薦めです。)

 さて、

香原斗志 『イタリア・オペラを疑え! 名作・歌手・指揮者の真実をあぶり出す』(アルテスパブリッシング)

を読みました。

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 「どの項からでも読める」、とは書かれているものの、少なくとも、50頁近くまでは、最初から読んでいったほうがよい。
 本書の題名にある〈疑え〉とは、イタリア・オペラに対するいわれのない偏見を〈疑え〉ということもあって、決して、現行オペラを批判するものでは無いからです。

 まずは、イタリア・オペラに対する、ドイツ・オペラの優越性の偏見とオペラにたいする交響曲の優越性の偏見をただすことから始まります。
 そして、この後に、様々なオペラを楽しむ知識が満載されていますが、主に、ベルカント・ロマン主義・ヴェリズモといった区分を視点として叙述が進みます。
 中級以上、の書でしょうか。オペラを観ていないと十分に理解出来ないと思います。

 さて、最初。ドイツ・オペラと交響曲が上位であるという考えを〈疑う〉ことから始まります。
 ロッシーニなどとイタリアオペラを、軽薄、堕落した格下のものと見なして、ドイツ音楽こそ正統的なクラシック音楽であると批判した出発点は・・、

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原田マハ 『フーテンのマハ』と『芸術新潮』の「原田マハの 泣ける ! 印象派物語」 ~人柄が理解できるエッセー集と珠玉の短編です。

 この夏から、「三国志」(演義ではなくて、正史の小説)を読もうと、参考書を読み始めたり、地図や年表をコピーしたりし始めています。このことは、いずれアップします。

 このところ原田マハさんの作品を多く読んでいます。

 雑誌でも、『芸術新潮』6月号で、「原田マハの 泣ける! 印象派物語」が特集されているので、買い求めました。
 この特集自体、原田さんの7編の短編小説集の趣で、例えば・・、

クロード・モネがセーヌ河で自殺をはかった話、エドゥアール・モネとモネに心を寄せるモネの弟が夫のベルト・モリゾの話、
エドガー・ドガを応援したメアリー・カサット、78歳のピエール・オーギュスト・ルノワールの最期、
自らは絵画制作から遠ざかって印象派の膨大なコレクターとなったギュスターヴ・カイユボット、
29回モデルになったセザンヌの妻オルタンス・セザンヌ(このブログで、後日、『デトロイト美術館の奇跡』の感想の中で詳述します。)、
フィンセントとテオのゴッホ兄弟・・

など、既に著者の作品で触れられた逸話が大半ですが、これらをまとめて読むと、〈印象派〉というものが理解できます。
 印象派推移の歴史イラストや、それぞれの画家の詳しい年表も整理されていて、これは《保存版》です。
 
 そういう時に、書店にある新刊文庫で、
 
 原田マハ 『フーテンのマハ』(集英社文庫)

が出ていましたので、早速、読みました。
 著者が、〈フーテンの虎〉のファンとは言え、ちょっと、著者のイメージにはそぐわない書名だな、と思っていたのですが、内容を読んで、そのイメージがどうも違っていたように思えました。

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 著者の〈これまで〉や、旅、取材旅行、グルメの話が、著者の可愛らしいイラスト(写真は、本書15頁から引用させていただきました。)付きで語られています。

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 こういうエッセーを読むと、想像とは違った、著者のイメージを知ることが出来ます。

 「夫」の話が、再三出て来たり、三人ぐらいの同行取材など、「はあー」と言う記述もありますし、一方、『芸術新潮』と同じパリのオランジュリー美術館での写真もあります(別にどうと言うことではありませんが)。
 ・・ということで、ここらで一旦、著者の生の姿に接することが出来たのは有意義でした。
 引き続いて、著者の、
『デトロイト美術館の奇跡』、
『異邦人(いりびと)』を読んでいます。★

東京都庭園美術館・旧朝香宮邸と、「鹿島茂コレクション・フランス絵本の世界」を観てから銀座をブラブラと散歩しました。初めて「いきなり!ステーキ」の店にも。

 梅雨入り前の晴天、真夏日に近い日ですが、目黒まで出て、港区白金にある特別公開中の、
東京都庭園美術館本館・旧朝香宮邸(重要文化財)、

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と、新館で行われている、
「鹿島茂コレクション・フランス絵本の世界」
を観ました。

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 本館の旧朝香宮邸は、約2100㎡ 重要文化財です。
茶室「光華」は、約85㎡、新館は、約4468㎡あります。

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 勿論、「庭園美術館」と言うほどですから、西洋庭園と日本庭園も立派で、特に、西洋庭園の芝生にある、日陰の椅子は、静かで、ここで読書したいほどです。

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荒山徹 『白村江』 ~白村江の戦いは、律令国家を作りたい天智天皇が、百済の亡命人材を得るために、水面下で新羅とも手を結んで行った、形だけの百済支援の芝居、という解釈が面白い。日韓の壮大な〈地政学〉も良く理解できる、歴史事実には忠実な長編です。

 先日、周防柳『蘇我の娘の古事記』を読んで、大化の改新(646年)前後の、大和、飛鳥の歴史を書いた書物を、さらに読みたくなりました。
 ちょうど、2017年に、《白村江》(はくそんこう・はくすきのえ)を舞台にした小説が2冊出ていました。
一冊は、三田誠広「白村江の戦い」(河出書房新社)ですが、もう一冊は、新聞書評で、「韓国のことが詳しく書かれている」というので、こちらにしました。

荒山徹 『白村江』(PHP)

です。

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 443頁の大冊ですが、白村江の戦い自体の描写は、426頁からのごく僅かです。
 と、言うのも、作者の解釈は、そもそも、葛城皇子(天智天皇)は、百済支援の気持ちはさらさら無かったというものですから。

 むしろ、大化の改新以降、律令国家を形成しようとしていた皇子ですが、圧倒的な人材不足で制度設計がなかなか捗ないのに悩んでいました。唐に、遣唐使を送っても、10年位後で無いと効果はでません。

 そこで、近しい関係であった百済に目をつけました。
 半島は、数百年にもわたって新羅、高句麗、百済が争っています。今、そこに、唐が高句麗を攻め、新羅が唐の支援で百済を攻めています。
 たまたま、百済王子を蘇我入鹿が助けて連れ帰っています。
 その折、百済は、唐・新羅に敗れたけれども、各地に〈復興軍〉が跋扈していて、戦は長引きそうです。

 一方、新羅は、倭の国と、秘密裏に〈半島不介入〉協定を結びます。使節団も常駐して、情報交換、信頼関係構築も怠りません。

 そこで、葛城皇子は、求めに応じて、百済支援をすることにします。百済王子が倭国にいることも〈利用できる〉と思ったわけです。しかし、支援は、本気ではありません
 倭国にいる百済王子が、百済に帰国して復興軍の士気があがったところに、倭の水軍を派遣し、さらに士気を高めます。そこで、さっと、ハシゴを外すと百済はどうにもならず敗戦し、百済人は、新羅、高句麗、いわんや唐には亡命出来ずに、倭国に亡命を求めて来ることを狙いました。求めて来る、これがポイント、大事なのです。
 そこで、選別して亡命を認め、人材を活用する・・、というのが葛城王子の筋書きです。

 本書は、その解釈をするのに、歴史事実に沿って、白村江の戦い(663年)21年前から詳述していきます。
 とても、その白村江は「戦い」、といったものでは無く、寧ろ、余ほど、676年の唐×新羅の白村江の戦いのほうが、〈戦い〉なのです。

 本書は、半島の壮大な、日韓の〈地政学〉が理解できる、スケールの大きな作品です。
 この時代を知ることは、「万葉集」の理解にも欠かせません。万葉集冒頭の歌は、天智天皇です。

 読んで、一つ惜しいのは、付録の地図を、高句麗、百済、新羅を分かりやすくし、主要地名をもっと掲載くしてほしかったことと、入り組む歴史人物系図にもう一工夫ほしかったことです。

 では、少し長くなりますが、あらすじを詳説します・・、

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若竹千佐子『おら おらで ひとりいぐも』 ~どんな人生も孤独です。時に〈孤独〉があばれても、なお、一人で生きてみたい、思い通りに我の力で、自由に生きてみたい、との心情あふれた作品です。

 いきなり余談です。私が、民生委員をしていた時に、ある一人暮らしのお婆ちゃんの話です。
『一人の夕飯の支度をしている時に、うっかり、包丁を落としかけて「あっ!」と言ったが、考えれば、その言葉が、その日発した唯一の言葉だった』というものです。

 この本を読んでいて、それを思い出しました。
 2017年下半期芥川賞受賞作、

若竹千佐子『おら おらで ひとりいぐも』(河出書房新社)

です。作者は、1953年生まれ。

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 書名は、宮沢賢治の詩「永訣の朝」の言葉で、「私は、私で一人で行きます」という、妹トシ子臨終にあたっての言葉から来ています。
 本書中では、夫の死を回想した後、自分のそれまでの心情が薄っぺらなものだったと思い、「もう今までの自分では信用できない。おらの思ってもみなかった世界がある。そごさ、行ってみって、おら、いぐも、おらおらで ひとりいぐも。」(115頁)との記述があります。

 東北方言で書かれた読みにくい文章の作品、という先入観があったせいか、本書を読むのが後回しになってしまいました。しかし、20頁も過ぎたあたりから、ほぼ、普通の文章です。
 私は、読み終えた後、もう一度、その20頁あたりまで再読しましたが、今度は、方言文章が全く気にならず、すらすら理解できました。

 主人公は、都市郊外の、今は、街も老いて寂れている、かつての新興住宅地に、一人で住む、75歳の日高桃子さん。

 夫・周造は、31年間暮らして、15年前に亡くなっています。16年間暮らした犬も昨年身罷り(死に)ました。
 〈おれおれ詐欺〉にも騙されて、250万円取られたこともあります。しかし、息子にあった微妙な感情が、騙された、という気持ちもあります。

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周防柳 『蘇我の娘の古事記』 ~古代史に、縦横な解釈と、壮大なロマンを織り込んで、巻を置けない面白さに満ちています。

 昨日、現役の頃からずっと通っている、大手町の散髪屋に行った帰りに、「丸善」書店で、「古事記」に関する書物を探しました。
 あるわ、あるわ・・、棚に、絵本から学究書まで膨大な書物がありました。
パラパラと、頁を繰っていると、まだ、さまざまな学説の対立があることがわかりました。

 きっかけとなったのが、本書、

周防柳 『蘇我の娘の古事記』(角川春樹事務所)

で、「古事記」、〈ふることぶみ〉に関わる、古代史の隙間を、著者の様々な解釈によって補い、二人の兄妹を中心に据えて、陰謀、嫉妬、戦に翻弄される兄妹愛、親子愛、近親愛を描いています。
 最後、ストンと、史実に融合して終わるのが見事です。
 周防柳(すおう やなぎ)は、1964年生まれの女流作家です。以前、「逢坂の六人」などを読んだことがあります。

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 章ごとに、紙質を変えて、古事記に関する神話・伝承をまとめているのも、面白い。
 兎も角、久しぶりに読み応えのある物語でした。3日ほどで読み終えてしまいました。

 物語は・・、白雉(はくち)元年(650)に始まります。
 飛鳥には、船、白猪(しらい)、津など多くの百済人が渡来していました。船氏は、徴税や国史編纂(「大王記」)などにあたっていました。

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ヘンデルのオペラ『アルチーナ』 ~2組の恋が成就し、すべてを失った女王の物語を、新鋭歌手陣の渾身のダ・カーポ・アリアと、美しい古楽演奏で堪能しました。

 5月20日(日)14時から、「めぐろパーシモンホール」で、〈二期会ニューウェーブ・オペラ劇場〉、
ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデル(1685-1759)作曲の、

オペラ『アルチーナ』(HWV34)

を鑑賞しました。
 席は、S席最前列。このホールは、実に、観やすく、座席も少しスライドして楽です。

 物語のあらすじは、《予習》の、3月9日をご覧ください。
 余談ですが、前日の19日の公演を選んでいたら、夜、冷たい北風の中を帰宅するところでした。20日は、抜けるごとき晴天、暑からず寒からずの絶好の外出日和でした。
 ホールは、渋谷駅から東急東横線で約10分、「都立大学駅」徒歩7分のところにあります。

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 二期会公演は、大概そうですが、この日は特に、〈ニューウェーブ・オペラ劇場〉という、二期会オペラ研修所を出て3年以内の若手俊英歌手を中心にしたキャスティングで、出演者の知り合いが来ているのでしょうか、ドレスアップした女性が目立ちました。
 舞台も、超ベテラン勢のオペラとは違った、新鮮で懸命な盛り上がりと、発見のある、印象に残る、良い公演でした。
 〈ニューウェーブ・オペラ劇場〉では、過去に、『ジューリオ・チェーザレ』(2015-5-23)や『子供と魔法』(2012-5-23)などを観ています。

 演目は、《バロック・オペラ》です。〈バロック〉とは、〈いびつ〉なを意味するポルトガル語〈バロッコ〉が語源ですが、17世紀以前の端正な古典的建築作品と比して、18.9世紀の建築作品の揶揄から来ています。
 レチタチーヴォダ・カーポアリアの組み合わせで、心象風景を描いた演出です。
今回、私は、アリアを徹底的に楽しもうと、十分な予習をして行きました。

 若手歌手陣は、皆、頑張っていました・・、

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プロフィール

感動人

Author:感動人
 芸術全般を愛する団塊世代です。
 芸術団体を「引退後」、たっぷり時間をかけて、いろいろな芸術を初心にかえって学び、横断的に、楽しんでいきたいと思います。もうひとつ、心身共に健康に「年をとっていく」ための、生活のマネジメントも「同時進行」でお伝えします。
 のんびりと過ごしたいと考えています。お寄せいただくコメントなども、論争などは避けて、ゆったりしたお話をお寄せください。

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